呼吸器・アレルギー疾患内科

【ARDSについて】

概要と特色診療担当表医師紹介診療内容診療実績

 ARDSとは急性呼吸促迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome)の略称で、1967年に初めて報告されました。肺炎や敗血症などさまざまな原因により、重い低酸素を伴う肺水腫の状態となり、急激に呼吸不全が進行して多くの場合人工呼吸を必要とします。これまでさまざまな治療法が検討されてきましたが、有効とされるものはほとんど見つかっていません。現在も約30%の方が亡くなってしまう非常に重症な病態で、厳重な全身管理が必須です。当科でも年間約15~20人のARDSを発症された患者さんの治療を行なっており、その原因の約75%は肺炎、間質性肺炎の急性増悪、敗血症などです。

どのような症状が起こりますか?

 咳や痰などの呼吸器症状から始まり、数時間から数日で急激に呼吸困難が増強します。多くの場合は発熱や頻脈を伴い、浅く早い呼吸となります。さらに進行するとチアノーゼ(低酸素で口唇、四肢末梢が紫色になる)を認め、高度の呼吸困難に陥ります。聴診では断続性ラ音,いびき音,笛音などが聞かれ、また血痰を伴うこともあります。

どのような経過をたどるのですか?

 症状の進行は大変早く、数時間で胸部レントゲンが真っ白に写るほどの肺水腫となることもあり、このような場合は直ちに集中治療室(ICU)で呼吸・循環管理を行ないます。当院には8床のICUベッドがあり、ARDSの患者さまは主にこちらで治療させて頂くことになります。通常数日~数週間で徐々に回復して人工呼吸器から離脱し、1~3ヶ月程度で半数以上の患者さんは退院が可能となります。

どのような検査が必要ですか?

 ARDSはさまざまな原因で起こるため、その原因を探るための検査(血液検査、レントゲン、CTなど)が必要になります。さらに肺の状態や治療効果を調べるため、「肺機能検査」や「気管支鏡検査(カメラ)」を行ないます。特に「気管支鏡検査」からは多くの情報が得られ、例えば細菌感染の有無や肺障害の程度、肺水腫の原因などをつきとめることができます。しかしこの手技は危険性もあるため、当科では必ず熟練した複数の医師で行ないます。

どのような治療法がありますか?

 最も重要なのは原因となっている疾患の治療を行なうことです。感染症に対しては抗生剤の投与を行い、必要に応じて強心剤などの投与も行ないます。
 呼吸管理は不可欠であり、酸素投与で酸素化が維持できない場合は「機械的な換気補助=人工呼吸」を行ないます。現在ARDSに対する換気補助は、人工呼吸で肺にかかる圧力や換気量を必要最低限にして肺のダメージを少なくするという「肺保護的換気戦略(protective lung strategy)」が行なわれています。
 この考え方をもとにして、当科では主に3通りの人工呼吸療法を行っています。
(1) 非侵襲的人工換気(NPPV;noninvasive positive pressure ventilation)
 機械から送られる空気を、顔に密着させた柔らかいマスクを介して呼吸します。通常の人工呼吸では換気のためのチューブを口から声帯へ通す必要がありますが(気管挿管)、NPPVではその必要はなく、人工換気中も会話や飲水が可能で、より快適です。機械によって肺に一定の圧力をかけることで、肺が萎んでしまうことを防ぎ、酸素化を改善します。またチューブを介した肺炎(人工呼吸関連肺炎:Ventilator associated pneumonia)も予防することができます。
(2) 圧補助換気(PCV;pressure control ventilation)
 NPPVで管理不能となった場合や血圧などが不安定な場合は、気管挿管を行い肺にかかる圧を制御して呼吸を補助します。この場合は患者さんの不快感を減らすため、点滴から鎮静剤を投与し眠って頂きます。過剰な圧力は肺にダメージを与えるため、なるべく低い圧で換気ができるよう管理します。肺の状態が改善し、自発呼吸が可能となれば、チューブを抜去して酸素投与に切り替えます。
(3) 高頻度換気(HFOV;high frequency oscillatory ventilation)
 NPPVやPCVで酸素化が維持できない重症のARDSでは、患者さんの呼吸を止めて肺を休ませ、少量の空気を高頻度(5~10Hz)で気管挿管のチューブを介して振動させることで換気を維持するHFOVが用いられるようになりました。この人工呼吸法は新生児領域ではすでに十分な効果が上がっており、最も肺に優しい方法として期待されています。現在日本ではまだ数施設で行なわれているのみですが、当科ではこのHFOVをいち早く取り入れ、臨床応用しています。2004年から数十名の重症の患者さんに対して使用し、30日の生存率は40%前後という結果が得られています。さらに2011年より使用プロトコールの見直しを行い、30日の生存率は50%を超えるようになってきています。今後もARDSの患者さんの予後を改善できるよう、この人工呼吸法の経験を重ねてゆく予定です。
 ARDSの治療には、他にも好中球(白血球のひとつ)が産生する酵素を阻害して、肺の炎症を抑える薬物(エラスターゼ阻害薬など)や肺炎の修復の過程で肺が硬くなること(線維化)を防ぐステロイドによる薬物療法もあり、これらを総合的に用いながら治療にあたっています。
 現在までの治療成績は、NPPVのみで管理できた場合30日間の生存率は約90%、気管挿管しPCVまたはHFOVで管理した場合の30日間の生存率は54%となっています。

生活上どんな注意が必要ですか?

 今のところARDSの予防法はありません。さまざまな原因で生じうる疾患であり、非常に重症化しやすいので、発症した場合は直ちに入院して治療が必要となります。早期に治療を始めると予後がよい可能性も示されており、当科でも早期診断・早期治療を心がけています。またARDSを発症すると、全身の末梢神経が障害され、「ICU-acquired weakness」とよばれる感覚障害と四肢・体幹の脱力を生じやすくなり、人工呼吸からの離脱が遅れることがあります。また前述のように人工呼吸の管理もかなり繊細な設定を要求され、われわれ専門家による管理が必須です。

ページトップ